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岡山地方裁判所倉敷支部 昭和50年(ワ)95号 判決

原告 佐々木一吉 外一名

被告 国 外二名

主文

被告佐藤圭一、同佐藤雅宣は、各自、原告両名に対し各金五二一、九七一円、および内金四七四、九七一円に対する昭和五〇年七月一三日より、内金四七、〇〇〇円に対する本判決確定日の翌日より、各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告両名の被告佐藤圭一、同佐藤雅宣に対するその余の請求を棄却する。

原告両名の被告国に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、原告両名と被告国との間においては全部原告両名の負担とし、原告両名と被告佐藤圭一、同佐藤雅宣との間においては、原告両名に生じた費用の三分の二と同被告らに生じた費用を通じ、これを六分し、その一を同被告らの負担とし、その余を原告両名の負担とする。この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告ら

1被告らは、各自、原告らに対し各金三、四三三、三〇一円、および各内金三、一二三、三〇一円に対する昭和五〇年七月一二日より、各内金三一〇、〇〇〇円に対する本判決確定日の翌日から、それぞれ支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2訴訟費用は被告らの負担とする。

3仮執行の宣言。

二、被告国

1原告らの請求を棄却する。

2訴訟費用は原告らの負担とする。

3予備的に、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

三、被告佐藤圭一、同佐藤雅宣

1原告らの請求を棄却する。

2訴訟費用は原告らの負担とする。

第二、主張

一、原告らの請求原因

1訴外佐々木省二は、左記交通事故により死亡した。

日時 昭和四九年四月七日午前一一時五五分頃

場所 浅口郡里庄町里見四、二一三番地先国道上

加害車両 被告佐藤雅宣運転の普通乗用車(岡五五む五五〇一)

被害車両 佐々木省二運転の自動二輪車(岡さ二二四四)

死亡日時 昭和四九年四月七日

死因 肺挫傷、血胸

2 交通事故の態様

佐々木省二が被害車両を運転し、自動車線左側〇・五ないし〇・九メートルの路側帯上を時速五〇ないし六〇キロメートルの速度で東へ進行中、被告佐藤雅宣は、加害車両を運転して後方より先行車をつぎつぎと追い越し、被害車両の右斜め前方を走行していた普通乗用車をも追い越そうとした際、折から対向車があつたため、右先行車を左側から追い越そうと、被害車両前方の自動車線左側路側帯に進入してきた。そのため佐々木省二は、加害車両との接触を避けるため左転把したところ、たまたま右路側帯のアスフアルト舗装部分が左端より巾一メートル、長さ一・九メートルにわたり損壊し、舗装表面部分から深さ一八センチメートルの段差があつたため、被害車両の車輪が右「くぼみ」におちこみ、ハンドルをとられて蛇行運転を余儀なくされ、前方約三〇メートルの道路左端排水溝ブロツクに衝突して転倒した。

3 責任

(一)  被告佐藤雅宣は、右事故態様記載のとおり、先行車追い越しの際に、その右側を通過しなければならないのに左側を通過しようとし、被害車の進路を妨害した過失があるので、本件交通事故について民法七〇九条による損害賠償をする責任がある。

(二)  被告佐藤圭一は、加害者車両を保有し、自己のため運行の用に供していたもので、本件交通事故について自賠法三条による損害賠償をする責任がある。

(三)  被告国は、本件道路を各種車両の通行に支障なきよう管理すべき責任があるところ、前記事故態様記載のとおり国道上の舗装部分が損壊し、段差が生じていたにも拘らずこれを放置していたもので、公の営造物の設置、管理に瑕疵があり、これによつて本件交通事故が発生したのであるから、国家賠償法二条により損害賠償の責任を負う。すなわち、

(1)  本件「くぼみ」が余裕地と呼ばれる部分にあつたとしても、右部分が国有地で国道の一部であることは明らかであり、片側一車線しかない本件国道においては、路肩(路側帯)部分を車両ことに自動二輪車が走行することは必然的に予想されるのであり、国は、その交通状況を考慮して安全かつ円滑な交通が確保できるよう右余裕地をも管理しなければならない。

(2)  道路管理者は、道路の法面部分を隣接地所有者に埋立てさせる場合にも、その施工、完成について、承認ないし検査等の権限を有するものであるところ、右埋立てにより生ずる余裕地部分も道路としてのみ使用することが予定されているのであるから、道路としての効用を保つよう右工事を管理しなければならない。

(3)  本件「くぼみ」は、道路北端の車止めの内側にあり、また走行中の車両からは前記のような深さがあることは予見できず、極めて危険な状態にあつた。道路管理者としては、前記工事の完工検査の時に、段差を生ずることのないようさせることができたし、またその後は右完工時の状態を維持すべきであつた。

4 損害

(一)  病院費用 二二、三六五円

亡佐々木省二は、事故後玉島中央病院に運ばれて処置を受けたが、右処置料として出損したものである。

(二)  葬祭費用 四〇〇、〇〇〇円

亡省二の葬儀に用した費用である。

(三)  逸失利益 九、八四六、六二〇円

亡省二は、死亡時、一七才の健康な男子で県立鴨方高校三年生であつたが、高校卒業後の満一八才から六七才までの四九年間就労可能であつた。昭和四八年賃金センサスによれば、高校卒業男子の一八才における平均給与月額は六一、三〇〇円であり、平均年間賞与額は七一、五〇〇円であるので、これによる年間所得から生活費としてその二分の一を控除し、ホフマン式計算(係数二四・四)により年毎の中間利息を控除して現価を求めると、右金額になる。

(四)  慰謝料 六、〇〇〇、〇〇〇円

右合計は一六、二六八、九八五円である。

5 原告らは、亡省二の両親として法定相続分二分の一の割合で相続したが、亡省二の交通事故による自賠責保険金合計一〇、〇二二、三八三円を受領しているのでこれを損益相殺し、その残金の二分の一である各金三、一二三、三〇一円の損害賠償を求めることができる。

6 原告らの被告らに対する本件請求に要する弁護士費用は各金三一〇、〇〇〇円である。

7 よつて原告らは、被告ら各自に対し、右損害合計各金三、四三三、三〇一円、および内金三、一二三、三〇一円に対する本件訴状送達日の翌日である昭和五〇年七月一二日より、内金三一〇、〇〇〇円に対する本判決確定日の翌日から、各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因事実に対する被告国の答弁

1  請求原因1の事実中、原告ら主張の日時、場所、被害車両に交通事故が発生し、亡佐々木省二がその主張の日時、死因で死亡したことは認めるが、その余の事実は不和。  2 同2の事実中、本件道路の路側帯外側線から二メートルの外側の未舗装部分に巾約一メートル、長さ約一・九メートルのなだらかな「くぼみ」があり、その深い部分で約一五センチメートルの段差があつたことは認めるが、その余の事実は不知。

3  同3、(三)の事実中、本件道路を一般国道二号線として被告国が管理していることは認めるが、その余の事実は否認する。すなわち、

(一) 本件段差のあつた位置は、いわゆる道路余裕地部分であり、車両等の通行の用に供する部分ではない。本件道路は、東西に走る国道で、その中央線北側に三・二五メートルの東行車線があり、車道外側線をもつてその旨標示されている。右車道外側線の外側に二メートル巾で路肩(路側帯)が設置され、その外側の端が路端となる。右部分までは、アスフアルト舗装をしているが、その外側は、かつて道路の法面であつたものが埋め立てられて平地となり、いわゆる余裕地を生じたもので、通行の用に供する部分ではない。したがつて、本件道路の設置、管理に瑕疵はない。

(二) また、右余裕地部分は、本来の道路面の構造に影響が及ぶことを防ぐ程度に、あるいは非常の場合における車両の駐停車に支障が生じない程度に管理すれば足りるもので、これを舗装する必要はなく、また多少の凹凸があつても支障がないものである。よつて、被告国には本件余裕地の管理にも瑕疵はない。

(三) 仮に、本件段差が営造物の瑕疵にあたるとしても、本件事故との相当因果関係がない。すなわち、被害車両が右段差上を通過したか否かは明らかでないうえ、右段差の存在により被害車両の操縦がハンドルをとられて不能になつたことも明らかではなく、本件事故は被害者の自損行為ないし相被告佐藤雅宣の運転妨害行為によるにすぎない。  4 同4の事実は不知。

5  同5の事実中、原告らの相続および自賠責保険金受領の事実は認める。

6  同6の事実は不知。

7  同7項は争う。

三、請求原因事実に対する被告佐藤両名の答弁

1  請求原因1の事実中、加害車両を被告佐藤雅宣運転の普通乗用車とある点を否認し、その余は認める。

2  同2の事実中、原告主張の日時、場所で、被告佐藤雅宣が普通乗用車を運転して先行車を追い越し、佐々木省二運転の自動二輪車の前方を走行し、自動車線左外側に進入したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3の事実中、(一)の事実は否認し、(二)の事実中、被告佐藤圭一が被告佐藤雅宣運転の普通乗用車を保有し、自己のため運行の用に供していたことは認めるが、その余の事実は否認する。右車両の運行と本件事故との間には因果関係がない。

4  同4ないし6の事実はいずれも不知。

5  同7項は争う。

四、被告ら三名の仮定抗弁

仮に被告らに責任があるとしても、亡佐々木省二は、時速一〇〇キロメートルをこえる高速度で自動二輪車を走行させ、本件「くぼみ」において転倒することもなかつたのに何ら制動措置をとることもなく、そのまま直進して約四〇メートル先のコンクリート溝渠に衝突したもので、同人の無謀な運転により本件交通事故を惹起させたものであり、本件交通事故は殆んど自らの過失によつて生じたもので、大巾な過失相殺がなされるべきである。

五、抗弁事実に対する原告らの答弁

抗弁事実は否認する。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、事故の発生

1  当事者間に争いのない事実

訴外佐々木省二が、昭和四九年四月七日午前一一時五五分頃、浅口郡里庄町里見四、二一三番地先国道上で、自動二輪車(岡さ二二四四)を運転して走行中、交通事故が発生し、肺挫傷ならびに血胸により同日死亡したことについては、当事者間に争いがない。また原告らと被告国との間においては、右国道の路側帯外側線から約二メートル外側の未舗装部分に巾一メートル、長さ約一・九メートルの「くぼみ」があつたことについては争いがなく、原告らと被告佐藤両名との間には、右事故発生の日時、場所で、被告佐藤雅宣が普通乗用車(岡五五む五五〇一)を運転して先行車を追い越し、佐々木省二運転の自動二輪車の前方を走行し、自動車線左外側に進入したことについては争いがない。

2  本件道路の状況

成立に争いのない甲第五号証の一ないし七、同第六号証の一ないし五、丙第二号証、同第四号証の一ないし三、同第六号証の一ないし四、証人岡本隆の証言により成立の真正が認められる丙第一号証、証人佐々木正俊、同岡本隆の各証言によれば、次の事実が認められる。

右認定に反する証拠はない。

(一)  本件交通事故の発生した道路は、広島方面から岡山方面に通ずる制限速度の定めのない一般国道二号線で、ほぼ東西に走る直線の見通しのよいアスフアルト舗装道路であり、その中央線は白破線により標示され、北側に巾員三・〇五メートルの東行車線が、南側に同巾員の西行車線が位置し、その両端は白実線の車道外側線をもつて標示されている。西行車線南側には巾員一メートルの側帯が設けられているうえ、その南側に歩道がある。しかし、東行車線北側には歩道が設けられておらず、路側帯(路肩)をなしている。

(二)  本件事故現場付近の東行車線北側の路側帯(路肩)部分は、当初、二メートル巾だけアスフアルト舗装され、その外側は道路法面をなしていたものであつたが、道路隣接地所有者の申請により被告国がその埋立てを承認し、法面部分の埋立工事がなされ、同部分も道路面と同一の平面を保つようになつている。その結果、右路側帯部分は、一部に法面を埋立てていない箇所もあるが、その殆んどは、北側に隣接する私有地との境に側溝が設置されているところまで、車道と同じ高さの平面をもつて、ほぼ三・六メートル程の巾をもつに至つている。右埋立て部分は、隣接地への通行のため道路面と同様にアスフアルト舗装されているところと未舗装の部分とがあるが、本件事故現場付近では三箇所の短区間の未舗装部分があるのみで、他は道路面と同様に舗装されていた。

(三)  本件道路は、中国地方を縦断する基幹道路であつて、交通量も多く、長距離輸送車などが頻繁に往来するところであるが、車道としては片側一車線しか設けられていないうえ、東行車線側には歩道も設置されていないので、その北側の路側帯は、軽車両、歩行者の通行のみならず、交通が混み合う時には本来通行を予定されていない原動機付自転車、自動二輪車が右車線をはみ出して通行することもしばしばあつた。

(四)  本件交通事故発生地点には、東行車線外側線北側約一・九メートルの外側に約一四メートルの区間の非舗装部分があつたが、そのうち、西側の舗装部分との接続部分から長さ約一・九メートル、巾約一メートルの範囲に「くぼみ」が生じており、道路面とは最大約二〇センチメートルの段差が生じていた。右段差は、東側非舗装部分とはなだらかな傾斜をなしているものの、西および南側の舗装部分とは、約一五センチメートル程度の鋭角の段差をなしており、またその「くぼみ」部分は軟弱な砂地をなしていた。

3  本件事故の態様

前記1、2の事実および成立に争いのない甲第六号証の一ないし五、原告佐々木一吉本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第七、八号証、証人出宮三郎、同岡本文男、同佐々木正俊の各証言、原告佐々木一吉、被告佐藤雅宣の各本人尋問の結果によれば、以下の各事実が認められる。

(一)  訴外佐々木省二は、前記事故発生日時、場所で、前記自動二輪車を運転して国道二号線東行車線外側の路側帯上を時速約六〇キロメートルの速度で東進していたが、右事故現場付近で右車線中央付近を同方向に進行していた普通乗用車(サニー)と併進する状態にあつた。

(二)  被告佐藤雅宣は、前記普通乗用車(ホンダ)を運転して右道路を東進し、そのころ右現場付近に差しかかつたが、その際被告雅宣は、先行していた前記普通乗用車(サニー)をその左側から追い越そうとし、同車と併進していた佐々木省二運転の自動二輪車との間に割り込み、さらに左側に寄つて車体のほぼ全部を左側の路側帯上に進入させた。

(三)  そのため佐々木省二は、被告雅宣の運転する車両との接触を避けるためやむなく外側線北側二メートルまで左側に寄つたところ、前記舗装部分と非舗部分との接続部分にあつた段差に自動二輪車の車輪を落した。佐々木省二は、そのため、右衝突と「くぼみ」部分の軟弱な砂地により、ハンドルをとられるとともに転倒しそうになり、車体のたてなおしを余儀なくされて制動をかけることもできず、そのまま約四〇メートル進行して道路脇のコンクリート製排水溝ブロックに前輪を衝突させ、約八メートル前方に飛ばされて転倒した。

以上の各事実が認められる。右認定に反する部分の証人高田範之、同石丸波吉の各証言、被告佐藤雅宣本人尋問の結果は、証人出宮三郎、同岡本文夫の各証言、原告佐々木一吉本人尋問の結果に照し、措信することができない。

二、責任および過失相殺

1  前記認定事実によれば、被告佐藤雅宣は、先行車を追い越す場合には、道路交通法に定められた方法で先行車の右側を通行し、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない注意義務があるのに、これを怠り、先行する普通乗用車(サニー)の左側を通行して追い越しをしようとし、同車と併進していた佐々木省二運転の自動二輪車との接触の危険を生じさせ、もつて右自動二輪車の進路を妨害して左転把を余儀なくさせて前示段差のある「くぼみ」に落ち込ませて前示のとおり転倒させたものであり、その過失は明らかであつて、その結果との相当因果関係も認められる。したがつて被告佐藤雅宣は、本件交通事故について、民法七〇九条による損害賠償の責任がある。そして、被告佐藤圭一が右雅宣運転の前記車両を保有し自己のため運行の用に供していたことについては当事者間に争いがなく、右車両の運行により本件事故が発生したものであることについては前示のとおりであるから、被告佐藤圭一も、自賠法三条により、本件交通事故についての損害賠償責任を負う。

2  ところで、本件道路が一般国道二号線として被告国が管理するものであることについては当事者間に争いがない。原告らは、同被告は右道路の管理にあたるものとして各種車両の通行に支障のないようにすべきであるのに、前示「くぼみ」を生じていたにも拘らず、これを放置していたことはその設置管理に瑕疵があり、これによつて本件交通事故が発生した旨主張するのに対し、同被告は、本件「くぼみ」は道路余裕地部分にあつて車両等の通行の用に供する部分ではないうえ、右余裕地部分の管理にも落度がなく、また、右「くぼみ」と本件事故との相当因果関係もない旨争うので、以下この点について判断する。

(一)  前記一、2の認定事実のとおり、本件「くぼみ」は、東行車線北側の外側線の約二メートル外側にあるところ、本件道路は、当初その北側の路肩部分としては二メートル巾を予定し、その部分は車道と同様にアスフアルト舗装されていたが、その外側は道路法面であつたところ、これを埋立て、道路面と同一の平面が形成されて、外観上路肩部分が私有地との境界部分まで拡張された形となり、この部分も一部アスフアルト舗装がされ、右「くぼみ」はこの舗装部分と未舗装部分との接続面に生じたものであつた。そして、道路法三〇条にもとづき道路構造の技術的基準を定めた道路構造令(昭和四五年政令第三二〇号)によると、路肩とは、道路の主要部分を保護し、または車道の効用を保つために、車道等に接続して設けられる帯状の道路部分であり、本件道路の場合には車線の巾員を三・二五メートル、車道左側に設ける路肩の巾員を〇・七五メートル以上とする旨定められており、本件事故現場付近は右基準を一応満しているものであるうえ、道路法四七条一項にもとづき道路の構造を保全し、または交通の危険を防止するため、道路との関係において必要とされる車両についての制限に関する基準を定めた車両制限令(昭和三六年政令第二六五号。昭和四五年政令第三二〇号、昭和四六年政令二五二号による改正)九条によると、歩道を有しない道路を通行する自動車(ただし、二輪のものを除く。)は、その車輪が路肩にはみ出してはならないものと規定されている。右規定の趣旨によれば、路肩の主たる機能は道路の主要構造部分の保護にあり、車両の通行が本来的には予定されているものではない。

(二)  しかしながら、道路の構造は当該道路の具体的状況において安全かつ円滑な交通を確保するものでなければならず、本件「くぼみ」についても本件道路の具体的状況に応じて、その通常の安全性を保有するものであるか否かを検討しなければならないところで、路肩が道路の主要構造部の保護のため、あるいは車道の効用を保つため設置されているとはいえ、右路肩部分について、道路交通法は道路の歩道の設けられていない側の、道路標示(外側線)によつて区画された、路端寄りに帯状に設けられた道路の部分を路側帯と称し、軽車両や歩行者の通行を予定しているものであるうえ、緊急の場合には車両の駐停車のみならず、危険を避けるためには一般車両もこの部分を通行する場合があることを予想しなければならず、これにより本来の車道の効用を保たさせているのであつて、道路の設置管理も右の趣旨に副うように行なわれなければならない。本件道路についてみるに、前示認定事実のとおり、交通頻繁な幹線道路であるため、交通が混み合う場合には右路側帯部分を自動二輪車等が通行することがあることもしばしばであつたが、このことも、現在の道路交通状況からは一概に予想しえないことではない。道路構造上の路肩の主要な機能が前示のようなものであるとしても、路肩部分が路側帯として使用される以上は右程度の効用を保ちうるように管理されなければならないことは明らかである。

(三)  また、路側帯は、その左端が構造上明瞭に区画されている場合はともかく、その区画がなされていないときには路端までが路側帯であると観念されるところである。本件事故現場付近においては、当初二メートル幅で設置された路肩部分が被告国の管理のもとに道路法面の埋立て工事がなされてさらに拡張されてその殆んどがアスフアルト舗装され、部分的に非舗装部分が残されているのみとなつているうえ、国道用地と隣接する私有地の境界には側溝あるいは車止めが設けられているもので、路側帯の範囲を示す設備ないし構造上の区分は存在していない。このため、本件道路を通行する車両および歩行者にとつては、路側帯ないし路肩は外側線から二メートルまでの範囲であつて、被告国において主張するように、本件「くぼみ」が存在した部分を路側帯ないし路肩とは異なる余裕地にすぎないと認識することは、事実上不可能である。そうであれば、一般通行者から右部分についても、道路交通法上の路側帯としての効用を期待されても、やむを得ないところである。

(四)  そして本件「くぼみ」部分は、前示のとおり、その西南が鋭角の段差をなしているため、東行する車両からは非舗装部分が存在することは認識することができてもその段差に気付くことはできにくい状態にあり、またその段差が約一五ないし二〇センチメートルにもなつていることは到底予見することができないのである右「くぼみ」の状況からはその存在が本来予定されている軽車両の通行にとつてもその安全を損うものであるばかりでなく、緊急避難のために通行を余儀なくされる車両にとつても、路側帯として期待される安全性を有するとはいえないことは明らかである。

(五)  右事情のもとにおいては、本件道路の管理者としては、道路の余裕地であるとする部分が車両等の通行がなしえないものであるならば、その旨を運転者らに周知徹底をさせる措置を講じなければならず、そうでなければ、少くとも本件「くぼみ」部分の段差を解消する補修を施すか、あるいは当該部分の危険を標示するなどの措置を講じなければならない。被告国においてこれを怠つたことは、本件道路の管理に瑕疵があつたものといえる。

(六)  被告国は、本件道路の管理に瑕疵があつたとしても、これと本件事故との間には相当因果関係はないとも主張するが前記認定事実のとおりの態様で本件事故は発生したもので、佐々木省二は、被告佐藤雅宣の進路妨害によりこれとの接触をさけるため、やむなく避難しようとして本件「くぼみ」の段差部分に車輪をのせ、そのためにハンドルをとられて転倒したものであつて、右瑕疵と本件事故との相当因果関係は明らかであるので、被告国は、国家賠償法二条一項により右事故によつて生じた損害につき賠償すべき責任がある。

3  しかしながら、佐々木省二は、前示認定事実のとおり、法定の最高速度である時速六〇キロメートル位で進行していたものの、道路交通法においては自動二輪車の通行が予定されていない路側帯上を通行していたものであるうえ、被告佐藤雅宣の進路妨害により避剰措置を採る際にも、右路側帯の非舗装部分に進入することは認識したはずであるから、減速したうえ、路面の異常にも対処しうるよう慎重に左転把しなければならないのにこれを行なわず、また、本件「くぼみ」の段差に落ちてハンドルをとられたためとはいえ、その後の事故回避措置も不十分なままに約四〇メートル進行してコンクリート製排水溝ブロツクに衝突して転倒しているもので、本件事故の発生については被害者側の過失もその責任の範囲を定めるにつき斟酌されなければならない。右過失相殺の割合は、被害者と被告佐藤両名との間においては、本件事故発生の状況を考慮して三割と定めるのを相当とし、被害者と被告国との間においては、右事故発生の状況とともに本件道路管理の瑕疵の態様をも考慮し、六割と定めるのが相当である。

三、損害

1  損害額の算定

(一)  亡省二の病院費用については、何ら立証がないので、採用することができない。

(二)  亡省二の葬祭費用は、同人の死亡について争いがないのであるから、社会通念上必要とされる葬儀費用金三〇〇、〇〇〇円の範囲についてはこれを相当因果関係ある損害と認めるのが相当であり、これを超える部分についてはその立証がない。

(三)  成立に争いのない甲第一号証、原告佐々木一吉本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、亡省二は、死亡時、一七才の男子で高校第三学年に在学していたもので、普通程度の健康状態にあつたものと推認されるから、厚生省第一三回生命表によればその平均余命五四・〇六年とみうるところ、高校卒業後の満一八才から満六三才までの四五年間就労可能であつたものとすることができる。そして、亡省二が就労する昭和四八年における賃金センサスによれば、高校卒業男子の一八才における平均給与は月額六一、三〇〇円であり、平均年間賞与は七一、五〇〇円であるので年間平均所得は八〇七、一〇〇円となるので、これより生活費としてその二分の一を控除し、ホフマン式年毎計算(係数二三・二三〇七)により四五年間分の中間利息を控除した金額九、三七四、七四九円が現在における得べかりし利益を喪失した損害にあたる。

(四)  本件交通事故により死亡した亡省二の慰謝料としては、本件の諸般の事情を考慮すれば金六、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

よつて、本件交通事故による亡省二について生じた損害額合計は一五、六七四、七四九円となる。

2  ところで、前記二、3のとおり、本件交通事故による損害についてはそれぞれ過失相殺されるので、被告佐藤両名についてはその三割を控除した一〇、九七二、三二四円が、被告国についてはその六割を控除した六、二六九、八九九円が、その責任の範囲となる。

3  そして、成立に争いのない甲第一号証によれば、原告らは、亡省二の父母として法定相続分二分の一の割合で同人の損害賠償請求権を相続したことが認められるが、原告らは、亡省二の本件交通事故による自賠責保険金として原告両名が合計一〇、〇二二、三八三円を受領していることを自認しているのであるから、右金額を損益相殺として前示損害金額より控除しなければならない。これを被告佐藤両名についてみると、原告らは、右控除をした残金九四九、九四一円の二分の一である各金四七四、九七一円宛同被告らに対し損害賠償請求権をなお有することとなるが、被告国に対して請求しうる損害額はすでに全額填補されているものといわなければならない。

4  そして弁論の全趣旨により、原告らは被告佐藤両名に対する本件損害賠償請求権の行使のため弁護士に訴訟委任したことが認められるので、その費用のうちの相当額各金四七、〇〇〇円は同被告らの不当抗争によるものと認め得るところであるから、原告らは同被告らに対し右損害の賠償も請求しうる。

四、以上のとおりであるから、原告らは、被告佐藤両名各自に対し各金五二一、九七一円、および内金四七四、九七一円に対する本件訴状送達日の翌日である昭和五〇年七月一三日より、内金四七、〇〇〇円に対する本判決確定日の翌日より、各支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるので、原告らの本訴請求のうち右の限度においてこれを認容することとし、同被告らに対するその余の請求および被告国に対する請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大内捷司)

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